カテゴリ:2009.08.21〈近藤文夫〉( 1 )   

近藤文夫/料理人・銀座 てんぷら近藤店主   

近藤文夫(こんどうふみお) 大切にしている言葉/絶対天狗になるな

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     池波正太郎さんの「食の作法」

f0207537_1843035.jpg「確実な死に向かって、有限の時間を確実に減らしていく。それが人の一生なんだよ。しかも明日が最後の日でないという保証はどこにも、だれにもない。だから今日という一日が大切なんだ。毎日、そう思って飯を食え。そう思って酒を飲め」
  (「池波正太郎の食まんだら」佐藤隆介)



f0207537_1861877.jpg近藤文夫さんは、池波正太郎さんがこよなく愛した東京・お茶の水「山の上ホテル」の「てんぷらと和食・山の上」の料理長を長年に渡って務められて、現在は、てんぷら店で唯一、ミシュランガイド2つ星のお店、「銀座てんぷら近藤」の店主でいらっしゃいます。

      

      さっぱりしていていくらでも食べられる近藤のてんぷら。
       揚げたてをのせる和紙に油がほとんど付かないのは?


普通、てんぷら屋さんでは、揚げたてんぷらを降って油を切って出すのですが、うちではそのままストレートに出します。火を強めたり弱めたりして油を切っていくのです。そうすると素材の甘み、苦みといった味がストレートに出てきます。野菜は契約農家にお願いして作っています。私たちの仕事は、てんぷらにすることで、素材の味をプラス20%引き出すことです。契約農家へは全て実際に足を運び、農家の方と直接お話をします。無農薬、有機栽培。そして、その場所の水がおいしいかどうか。本当においしいものをお客様に召し上がって頂くために、手間暇をかけて良い素材を集めます。


     名物“サツマイモのてんぷら”

両端の細いところを切り落とし、そのままてんぷらにしたものです。生の状態から、30分かけて揚げるのですが、外側はかりっとしていて中はほくほく。実は私はサツマイモが嫌いで、あんなものをてんぷらにして食べるのが不思議だったのです。ところが、神宮球場で食べた焼き芋や実においしかった。てんぷらで、その焼き芋に勝るものを作りたいと思い、できあがったのが今の形です。揚げている間は絶対に刺しません。だから中には一滴の油も入らず、ホクホクに仕上がる。“てんぷらにすることでおいしくならなかったら、お金はいただけませんから”。

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若いころ働いていた「山の上ホテル」のあるお茶の水。その頃のお茶の水は、石垣があってきれいな場所でした。当時、この曲を聴いたときに、こんなイメージを歌った曲だと思ったものです。この曲を聴くと、若い頃の気分に戻ることができます。

060.gif学生街の喫茶店/ガロ



    おまえはてんぷら向きの顔をしている。

父が小学校に行く前に亡くなって母一人に育てられました。子供の頃から自分で料理を作って食べられたらどんなにいいだろうと思い続けていました。ホテルに就職して、ホテルの社長から「おまえはてんぷら向きの顔をしている」と言われ、和食の道へ。


    池波正太郎先生との出会い。

「山の上ホテル」では、多くの著名人の方と出会いました。写真家の土門拳さん、俳句の山本健吉さん、水原秋桜子さんなど。中でも、親しくさせて頂いたのが池波正太郎先生でした。そのご縁で、池波正太郎原作のドラマ「剣客商売」の料理はを手掛けることになったのです。おはるが作るもの、不二楼で出てくるもの、カットによって出される料理は全然違うので、台本を読んでひとつひとつ場面に合わせて作るというものでした。

f0207537_18551155.jpg「剣客商売」ドラマ化するにあたって、池波先生は何度かお店にいらっしゃいました。ところが、なかなか「料理を頼む」と言い出せなかったようです。「近藤君も忙しいだろうから…」という、江戸っ子らしい気遣いでした。池波先生から、「剣客商売で料理を作って出したいから、担当して欲しい」という正式な依頼を受けて、一回だけならと思って引き受けたのですが、すぐに出版社から「剣客商売」の全巻(現在文庫本で16巻)が送られてきました。ドラマがスタートして18回目で、池波先生がお亡くなりになり、その仕事を続けていくかどうか迷いましたが、池波先生のご意思だからと思い続けることにしました。

      池波先生からの手紙!

36才で独立したいと目標を持っていました。池波先生に相談したとき、直接お手紙をいただきました。「僕は40才で作家になった。そのおかげでいい人生を送ることができている。」というひと言を読んで、「自分の思ったことをやるべきだ」と思い、独立への踏ん切りがつきました。

f0207537_19162785.jpg映画「大いなる西部」を見て、西部の開拓精神に感銘を受けました。それまで、てんぷら屋は野菜を扱わなかったのですが、私は野菜を開拓していこうと思った。当初は「野菜を食べにきたわけじゃない」というお客様も多かったのです。でも私には野菜に対する思い入れが強くあった。野菜はおいしいし、春夏秋冬を感じられるものです。“野菜がおいしいてんぷら近藤”の根底には私の開拓精神があるのです。
060.gif「大いなる西部」/サウンドトラック


   
 銀座で独立したのは、池波先生への恩返し。

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銀座にお店を出したのも、“池波正太郎さんにどうしたら恩返しができるか”と考えたから。「池波正太郎の銀座日記」にも書いているとおり、銀座は池波先生にとって第二の故郷。銀座は家賃が高いので、女房には“失敗したら何もかもなくなるから”と言って始めたのです。



f0207537_19383650.jpg心休まるものを
召し上がって頂きたい。


060.gif雨/ポール・モーリア。京都に行ったときに、ステレオで聞いて「なんて心の休まる音楽だろう」と思った曲。料理も、この曲のように心休まるものを召し上がって頂きたい。


これまでやってこられたのは幸せなこと。私を支えてくれたみなさんのおかげです。たくさんのお客様に来て頂くことができたのも、一生懸命やってきたことの積み重ねの結果。今でも毎日、朝5時から起きて、出汁と天つゆをとって、市場へ仕入れに行って、昼も夜もお店に立つ生活を続ける。それが私の人生。人生で大切にしている言葉絶対天狗になるなは、池波先生からいただいた言葉。天狗になったら料理はそこでおわり。だから朝から晩で働いています。天狗になる暇がありません。


       ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆

池波正太郎さんとのお話は、料理を超えて人としての情愛へと発展していきました。お客様に良いものをお出しするために、こだわり抜いた料理に対する姿勢と、池波先生に対する感謝の気持ち。その根底にある近藤さんの温かい人柄があふれでるようでした。


               てんぷら近藤
          
          東京都中央区銀座5-5-13 坂口ビル9F 
            TEL :03-5568-0923
          営業時間:12:00~13:30L.O.
               17:00~20:30L.O.
           定休日:日曜日、祝日の月曜日
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by crossroadmidori | 2009-08-21 19:45 | 2009.08.21〈近藤文夫〉